①排尿時痛・排膿がある
尿道口から膿が出るのは、尿道口から侵入した病原菌が尿道の粘膜に感染して尿道炎を起こしているのが原因です。尿道炎は主に性行為によって起こり、性感染症に含まれます(以前は性病と言われていました)。性行為があって数日(多くは2~7日)の潜伏期間の後に尿道口から濃い膿が多量に出て、強い排尿時痛を認める場合は淋菌による尿道炎(淋菌性尿道炎)が疑われます。一方、性行為があって1~3週の潜伏期間の後に尿道口からやや水っぽい薄い膿が少量出て、排尿痛が軽い場合は淋菌以外の病原菌による尿道炎(非淋菌性尿道炎)が疑われ、その約半数はクラミジアが原因です。尿道炎は、普通の膣性交の他、オーラルセックスでも起こることが少なくありません。その場合セックスパートナーの咽頭にこれらの病原菌が潜んでいると考えられます。
近年の性活動のバリエーションの増加に伴い、男女とも様々な部位(性器のみならず、咽頭・肛門・眼等)に感染が生じる事があり、男女とも通常のセックス以外の性交渉でこうした病気が感染する事が増えています。
また、安易に不適切な抗生物質の使用が汎用された結果、特に淋菌は多くの抗生剤が効き難い「耐性菌」と成っている場合が増えています。早期に適切な治療を行う必要がありますし、確実な効果判定を行う事が求められます。また、淋菌・クラミジア以外にもマイコプラズマ・ウレアプラズマ等、多くの性行為感染症の原因菌があり、それぞれ適切な診断・治療を行わないと症状が遷延化したり難治性に成る場合もあり、他の症状に移行する事もあります。症状が疑われる場合には早急な受診をお勧めします。
②検査で性病の検査を勧められた
梅毒:
梅毒は世界中に広く分布している疾患で、1943年にペニシリン治療が開始され、一旦は先進国では激減しました。しかし、1960 年代半ばには日本も含め、世界的な再流行が見られ、日本の感染症法による感染症発生動向調査によると、1999~2012年は500例−900例で推移してきましたが(2003年509例−2012年875例)、2013年は1200例を超え、前年の1.4倍に増加しています。NIID(国立感染症研究所)は、「注目すべき感染症」として連続で梅毒を取り上げています。埼玉県でも新規梅毒患者は2010年17件に対して、2013年は37件でした。特に男性の新規梅毒感染者の増え方が目立ちます。これは男性同士の性的接触による感染ルートや、性風俗での感染等で急激に梅毒感染が広まっていると考えられています。
検査に関しましては、感染初期には血液検査で十分な診断が着かない事もあり、感染から3週間以上経過後に確実な診断を行います。最初の症状(第1期梅毒)では感染部位(陰部、口唇部、口腔内)に硬結(硬いしこり)や、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れます。この第1期梅毒は多くは自然に消褪し、感染後3か月 – 3年の間に全身のリンパ節が腫れる他に、発熱、倦怠感、関節痛などの症状がでる場合があり、これを第2期梅毒と呼びます。典型的な皮膚の発疹が出る場合(バラ疹)もあります。この間に自然に症状が消える時もありますが、病原体が消えた訳ではなく、無治療の場合はこの後潜伏期に入ります。こうした時期でも適切な抗生物質の使用で、十分に治療が可能である場合も多いので、疑わしい場合は直ちに専門医を受診して下さい。少々厄介なのは、前述のように梅毒は現在でも注目すべき感染症であるにも拘わらず、かなり多くの医師が梅毒を診断・治療を行った経験がない事です。受診すべき医療機関は的確に判断する必要があります。
性器ヘルペス(Genital Herpes;GH):
性器ヘルペスは、実は最も一般的な性感染症のひとつで、日本における性器ヘルペス患者数は、推定年間72,000人。そのうち、男女とも20代以降の性的活動が活発になる年代に多くなります。どの年代でも男性より女性の患者数が多く、女性がかかりやすい病気です。セックスなどで感染してから4~10日の潜伏期をおいて発症します。38℃以上の発熱がみられることもあります。急に感染部位に痛みや痒さを感じます。感染部位に最初は水ぶくれができ、間もなくつぶれて、潰瘍(かいよう:ただれ)性の病変がたくさんできます。女性では、とても痛くて排尿ができないほどになる事があります。脚のつけ根(ソケイ部)のリンパ節がはれて痛くなります。女性の場合、ヘルペスウイルスの冒す範囲は、外陰部だけでなく、膀胱や子宮などにも及びます。ときに、このウイルスは髄膜にまで達して髄膜炎を起こすことも知られています。こうなると、とても強い頭痛がし、尿が出なくなります。何の治療もしないと症状が治まるまでには3週間程度かかりますが、きちんと早期に治療すると1週間くらいで治まります。男性の場合は、一般的に女性よりは症状はやや軽く、亀頭(ペニスの先端)、包皮、陰茎体部、お尻等に女性同様の皮膚所見が最もよくみられます。また、性器ヘルペスは症状が「治まる(おさまる)」と言っても、ヘルペスウイルスが完全に居なくなる訳ではありません。前述のひどい初感染症状が治まった後、1か月~1年前後で「再発する」場合も稀ではありません。一般的には所初感染より再発の場合の方が症状が軽い事が多いのですが、稀に症状が長期間遷延する事もあり、厳重な管理を要する事があります。